大学生活という、将来への可能性を広げるための貴重な4年間。その中で、グローバル社会で活躍するためのパスポートとも言える「英語力」を証明する資格取得は、多くの大学生にとって重要なテーマです。しかし、代表的なテストであるTOEICとTOEFLは、名前は似ていてもその目的や内容は全く異なります。「一体どちらを受ければ、自分の未来にとって最良の選択となるのだろう?」と、岐路に立ち、深く悩むのは当然のことです。
この記事では、そんな大学生の皆さんが抱える切実な疑問に対し、単なる情報の羅列ではなく、あなたのキャリア戦略の一助となるような深い洞察を提供します。TOEICとTOEFLはどっちが難しくて簡単?という根本的な比較から、就活ではどっちがいい?という極めて実践的な問いまで、あらゆる角度から光を当てていきます。
また、意外と知られていない英検の目的の違いとの比較、両テストのスコア換算の目安といった客観的なデータに加え、気になるTOEICの大学生の平均スコアは?といった現実的な立ち位置の確認も行います。さらに、学習計画の段階で多くの人が悩む「どっちから勉強する?同時に勉強は可能か」という戦略論、そして具体的な戦術となるTOEICの勉強法とおすすめ単語帳や、TOEFLの勉強法と対策のポイントまで、あなたの英語学習を具体的かつ強力にサポートする情報をお届けします。
【この記事で分かること】
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TOEICとTOEFLの目的・難易度・内容に関する本質的な違い
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就職活動、大学院進学、海外留学といった目的別の最適なテスト選択
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英語初心者から上級者まで、自身のレベルに合った効率的な学習の進め方と具体的な勉強法
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英検との比較やスコア換算など、客観的な指標に基づいた自身の英語力の正確な把握
TOEICとTOEFLどっち?大学生向けの基本比較
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TOEICとTOEFL、どっちが難しくて簡単?
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TOEIC、TOEFL、英検の目的の違い
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TOEICとTOEFLのスコア換算の目安
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TOEICの大学生の平均スコアは?
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高校生や社会人はどちらを選ぶべきか
TOEICとTOEFL、どっちが難しくて簡単?
大学生がTOEICとTOEFLの選択を考える際、まず直面するのが「どちらが自分にとって挑戦しやすいのか」という難易度の問題です。この問いに対する明確な答えは、「総合的な難易度はTOEFLの方が格段に高い」です。この難易度の差は、試験が測定しようとしている能力の本質的な違いから生まれています。
測定技能の範囲と内容の専門性
難易度を分ける最大の要因は、測定する技能の数と、出題されるトピックの専門性です。
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測定技能の広さ:一般的なTOEIC Listening & Reading Testが「聞く(Listening)」と「読む(Reading)」の2技能、つまりインプット(受容)能力を測定するのに対し、TOEFL iBTはそれに加えて「話す(Speaking)」と「書く(Writing)」のアウトプット(発信)能力を含めた、英語4技能全てを総合的に測定します。英語を「理解できる」ことと「使える」ことの間には大きな隔たりがあり、アウトプット能力を鍛えるには、より高度で実践的なトレーニングが必要となります。
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トピックの専門性:TOEICの出題内容は、ビジネスや日常生活における広告、Eメール、社内連絡、アナウンスなど、比較的イメージしやすい実践的なシチュエーションが中心です。一方、TOEFLは海外の大学・大学院での学業を円滑に遂行できるかを測る試験であるため、出題内容は生物学、天文学、芸術史、心理学といった、極めてアカデミックで専門的なものが主体となります。そのため、TOEFLで高得点を狙うには、日常会話レベルを遥かに超える高度な専門語彙の習得が不可欠です。
試験形式と心理的負担
試験の形式自体も、体感的な難易度に影響を与えます。
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TOEIC L&R:全問マークシート方式で、与えられた選択肢の中から正解を選ぶ形式です。解答はスピーディーに行う必要があり、特にリーディングセクションは時間との戦いになりますが、解答に迷ってもいずれかの選択肢を塗りつぶすことができます。
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TOEFL iBT:全てコンピューター上で受験します。リーディングやリスニングは選択式ですが、スピーキングはマイクに向かって自分の意見を録音し、ライティングはキーボードでエッセイをタイピングするなど、自ら英語を創造するタスクが課されます。この「ゼロから英語を生み出す」プレッシャーは、TOEICにはない大きな心理的負担となります。
両テストの基本情報を以下の表で比較します。
以上の点から、英語学習の第一歩として、あるいは国内での評価を目的とするならばTOEICが、より高度で総合的な英語力を証明し、海外での活動を目指すならばTOEFLが、それぞれ適していると言えます。
TOEIC、TOEFL、英検の目的の違い
英語力を示す資格は数多く存在しますが、大学生にとって特に馴染み深いのはTOEIC、TOEFL、そして「英検(実用英語技能検定)」の3つでしょう。これらは単に難易度が違うだけでなく、開発された背景や主たる目的が大きく異なります。自分の将来設計に最適な試験を選ぶためには、この「目的」の違いを深く理解することが不可欠です。
TOEIC:国際ビジネス社会の共通言語
TOEIC (Test of English for International Communication) の名が示す通り、その核心的な目的は「国際的なビジネス環境における、実践的な英語コミュニケーション能力の測定」にあります。1970年代、日本の国際化を背景に、ビジネスパーソンが実際に仕事で使える英語力を客観的に測るものさしとして開発された経緯があります。
そのため、出題内容は会議、電話応対、Eメール、出張、商品説明といった、具体的な業務シーンを色濃く反映しています。この特性から、日本国内の大多数の企業が採用や昇進の際に、応募者のビジネス英語能力を判断する指標として絶大な信頼を置いています。
TOEFL:アカデミック世界へのパスポート
TOEFL (Test of English as a Foreign Language) の目的は、英語を母語としない人々が、英語圏の高等教育機関(大学や大学院)で、学術的な講義を理解し、専門的な文献を読み、レポートを作成し、ディスカッションに参加できる英語力を持っているかを証明することです。アメリカの非営利教育団体ETSによって開発され、その内容は生物学、考古学、芸術史など、大学で扱われるような専門分野のトピックに特化しています。
このため、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国など、世界中の大学や大学院が留学生を受け入れる際の、英語力に関する公式な入学基準として採用しています。
英検:日本国内における英語教育の羅針盤
英検は、その名の通り「実用英語技能検定」であり、日本人の英語学習者のために、日常生活から社会的なトピックまで、幅広い場面で必要とされる総合的な英語力を測定・評価することを目的に、文部科学省の後援を受けて日本英語検定協会が実施しています。日本の学習指導要領にも準拠しており、級が上がるにつれて語彙や文法、扱うテーマが高度になります。
4技能をバランス良く評価する構成は、学習者の総合的な英語力向上に寄与し、特に国内の大学入試における優遇措置や単位認定の場面で広く活用されています。
まとめると、これら3つの試験の立ち位置は以下のようになります。
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就職活動・キャリアアップ → TOEIC
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海外留学(特に北米) → TOEFL
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国内の大学入試・基礎力証明 → 英検
自分の進みたい道筋を明確にすることで、どの試験に時間と労力を投資すべきか、自ずと見えてくるはずです。
TOEICとTOEFLのスコア換算の目安
TOEICとTOEFLは、測定する技能や目的が異なるため、一方のスコアからもう一方のスコアを100%正確に予測することは不可能です。しかし、自身の英語力が世界基準でどのレベルにあるのか、あるいは目標とするスコアがどの程度の英語力を示すのかを大まかに把握するために、国際的な言語能力指標であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を基にしたスコア換算表は非常に役立ちます。
CEFRは、言語能力をA1(初心者)からC2(熟達者)までの6段階で評価する国際的な基準です。以下に、このCEFRを軸としたTOEIC L&RとTOEFL iBTのスコア対照表を示します。
(参照:ETS、国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の公表データを基に作成)
この表を活用することで、例えば「就職活動で有利とされるTOEIC 785点以上」は、CEFRのB2レベルに相当し、これは「海外の大学で授業についていけるレベル」とされるTOEFL iBT 72点以上と概ね対応していることがわかります。
ただし、この換算には重要な注意点があります。前述の通り、TOEICはリスニングとリーディングの2技能しか測定していません。TOEICで900点を持っていても、スピーキングやライティングの訓練を積んでいなければ、TOEFLでB2レベル以上に対応するスコアを獲得するのは非常に困難です。この換算表は、あくまでインプット能力における一つの「目安」として捉え、各試験が要求する固有のスキルは別途対策する必要があることを肝に銘じておきましょう。
TOEICの大学生の平均スコアは?
TOEICの学習計画を立てる上で、全国の大学生の平均スコアを知ることは、自身の現在地を客観的に把握し、現実的な目標を設定するための重要な手がかりとなります。
TOEICテストを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が毎年発行する公式データ集「TOEIC Program DATA & ANALYSIS」によれば、2021年度にTOEIC Listening & Reading Testを受験した大学生全体の平均スコアは616点でした。このスコアのセクション別内訳は、リスニングが335点、リーディングが281点となっており、多くの日本の学習者がリーディングよりもリスニングを得意とする傾向がここにも表れています。
では、この「616点」というスコアは、就職活動においてどのように評価されるのでしょうか。これは、CEFRのB1レベルに相当し、「身近な話題について要点を理解し、基本的なコミュニケーションが取れる」レベルを示します。英語に対する一定の知識と意欲の証明にはなりますが、他の応募者と差をつける「強み」としてアピールするには、やや物足りないのが実情です。
一般的に、多くの企業がエントリーシートで注目し始めるのは600点以上です。そして、英語力を明確なアピールポイントとしたいのであれば、平均点を大きく上回り、CEFRのB2レベルに到達する730点以上が一つの重要なベンチマークとなります。実際に、上場企業の中には、新入社員に期待するスコアとして700点台を掲げているケースも少なくありません。
さらに、業務で英語を頻繁に使うことが想定される外資系企業、総合商社、メーカーの海外営業部門などを志望する場合は、800点台、あるいは「英語でスムーズに業務遂行が可能」とされる860点以上が、有利に働く、あるいは必須の要件となることもあります。
したがって、大学生がTOEICを受験する際には、まず平均点である616点を超えることを第一目標とし、最終的には就職活動で自信を持ってアピールできる730点以上を目指して学習計画を立てることが、効果的な戦略と言えるでしょう。
高校生や社会人はどちらを選ぶべきか
TOEICとTOEFLの選択は、大学生に限った話ではありません。キャリアの出発点にいる高校生や、キャリアの転換点にいる社会人にとっても、自身の目的を達成するための重要な選択となります。
高校生:将来への布石としての選択
高校生の英語学習の中心は、多くの場合、大学入試と英検です。英検は、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜において、出願資格や加点、試験免除といった形で直接的なメリットが最も大きい試験です。
その上で、将来の選択肢を広げるための戦略的な選択が考えられます。
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海外大学進学を視野に入れる場合 → TOEFL 将来的に海外の大学、特にアメリカやカナダへの進学を少しでも考えているなら、高校生のうちからTOEFLを意識することが賢明です。アカデミックな語彙や、長文読解、論理的なエッセイの構成といったTOEFL特有のスキルは、一朝一夕には身につきません。早期から対策を始めることで、他の志願者に対して大きなアドバンテージを築くことができます。
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早期から就職活動を意識する場合 → TOEIC 難関大学の特定の学部や、国際系の学部を目指す高校生の中には、大学入学後の就職活動まで見据えている人もいます。そうした意識の高い高校生が、ビジネス英語の世界を早期に体験し、自身の適性を見極めるためにTOEICを受験することは、有意義な自己投資と言えるでしょう。
社会人:キャリアプランに直結する選択
社会人が英語資格を取得する目的は、より具体的で切実です。自身のキャリアプランと直結するため、選択は慎重に行う必要があります。
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国内での転職・昇進 → TOEIC 日本国内の企業でキャリアアップを目指す場合、最も汎用性が高く、費用対効果に優れているのは間違いなくTOEICです。多くの企業が中途採用の際にも英語力の客観的な指標としてTOEICスコアを重視します。また、社内での昇進・昇格や、海外部門への異動の要件として、特定のスコア(例:730点以上)が設定されているケースは非常に一般的です。
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海外赴任・外資系企業への転職 → TOEFL(またはIELTS) より高度な英語運用能力が求められる場面では、TOEICだけでは不十分な場合があります。海外の現地法人でマネジメントを担う、あるいは日常的に英語での交渉やプレゼンテーションが求められる外資系企業で働くといった目標がある場合、4技能を測定するTOEFLのスコアは、より実践的なコミュニケーション能力の強力な証明となります。「TOEIC900点」よりも「TOEFL100点」の方が、総合的な英語運用能力の高さを説得力をもって示せる場合があります。
自身のライフステージと、その先に見据える目標を冷静に分析することが、最適な試験選びの第一歩となります。
TOEICかTOEFLどっちを選ぶ?大学生の目的別戦略
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就活ではTOEICとTOEFLどっちがいい?
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大学生はTOEICを何年生で受けるべきか
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院試ではTOEICとTOEFLどっちが有利?
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どっちから勉強する?同時に勉強は可能か
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TOEICの勉強法とおすすめ単語帳
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TOEFLの勉強法と対策のポイント
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まとめ:TOEICとTOEFLどっちが大学生に最適か
就活ではTOEICとTOEFLどっちがいい?
就職活動という競争の場で、自身の英語力を効果的なアピール材料としたい大学生にとって、TOEICとTOEFLのどちらのスコアを履歴書に記載するかは、結果を左右しかねない重要な戦略です。様々な意見がありますが、日本国内の一般的な就職活動においては、TOEICスコアを提出する方が圧倒的に有利であると言えます。
その理由は、日本企業の人事・採用システムに深く根差しています。
理由1:圧倒的な知名度と「共通言語」としての役割
最大の理由は、TOEICの日本国内における圧倒的な知名度です。数多くの企業が長年にわたり、採用や人事評価の基準としてTOEICスコアを利用してきた歴史があります。そのため、人事担当者や面接官は、応募者が提示したスコアから、その英語力のレベルをおおよそ瞬時に把握することができます。例えば、「730点」であれば「業務上、英語での基本的なコミュニケーションが可能」、「860点」であれば「海外の取引先とも不自由なくやりとりできる」といった、企業内での共通の「ものさし」が存在するのです。
これに対し、TOEFLは「海外留学のための試験」という認識が一般的であり、そのスコアが示す具体的な英語力のレベル感を正確に理解している採用担当者は、外資系企業などを除けば決して多くありません。せっかくTOEFLで100点というハイスコアを取得していても、その価値が十分に伝わらず、評価に結びつかないという事態も起こり得るのです。
理由2:ビジネス英語への親和性
TOEICは、その開発経緯からもわかるように、出題内容がビジネスや日常生活のシーンに特化しています。Eメールの読解、会議のスケジュール調整、電話での問い合わせといった内容は、入社後の実際の業務と直接的に結びつきます。企業側から見れば、TOEICのスコアは、応募者が「仕事で使える英語」の素養をどれだけ持っているかを判断するための、分かりやすい指標となるのです。
例外:TOEFLが活きるケース
ただし、この「TOEIC有利」の原則には重要な例外が存在します。
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外資系企業:特に、社内の公用語が英語であったり、日常的に海外オフィスとの連携が必須であったりする企業では、4技能を測定するTOEFLのスコアが高く評価されることがあります。
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高度専門職:外資系のコンサルティングファームや金融機関、研究開発職などでは、英語で専門的な文献を読み解き、論理的なレポートを作成し、国際的な会議で発表するといった高度な能力が求められるため、TOEFLスコアがその証明として機能します。
したがって、基本的な戦略としては、まずTOEICで高スコア(730点以上)を目指すことが最も確実な道です。その上で、特定の業界や企業を強く志望する場合には、TOEFLのスコア取得も視野に入れる、という二段構えが理想的と言えるでしょう。
大学生はTOEICを何年生で受けるべきか
「TOEICは就活に有利」と理解していても、次に悩むのが「いつ受験するのが最も効果的なのか」というタイミングの問題です。結論としては、特定の学年にこだわるのではなく、大学生活を一つの期間と捉え、目的意識を持って計画的に受験することが成功の鍵となります。
大学1・2年生:「準備と戦略」の期間
就職活動までまだ時間のある低学年のうちからTOEICに取り組むことには、計り知れないメリットがあります。
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英語学習のペースメーカーとして:大学に入学すると、高校までのような強制的な学習機会は減少します。そこで「半年後にTOEICで600点を取る」といった具体的な目標を設定することで、日々の英語学習に対するモチベーションを高く維持することができます。これが、大学4年間を通じた学習習慣の確立に繋がります。
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客観的な実力把握と長期計画の策定:まず一度受験してみることで、「自分の弱点はリスニングのPart 3だ」「語彙力が圧倒的に足りない」といった現状を客観的なデータとして把握できます。この自己分析に基づき、目標スコア達成までに必要な学習内容と時間を逆算し、長期的な学習計画を立てることが可能になります。
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大学独自の制度の活用:多くの大学では、学生向けに「TOEIC IPテスト(団体特別受験制度)」を、公開テストよりも安価な価格で実施しています。学内で手軽に受験できるこの機会を、力試しや定期的な進捗確認の場として積極的に活用しない手はありません。
大学3年生:「実践と完成」の期間
就職活動が現実味を帯びてくる大学3年生は、TOEIC受験がより戦略的な意味を持ちます。
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「使える」スコアの取得:TOEICスコアの公式認定証に記載される有効期限は、試験日から2年間です。企業によっては、エントリーシートに記載するスコアを「2年以内に取得したもの」と定めている場合があります。そのため、就職活動本番で確実に使用できるスコアとして、大学3年生の春から秋にかけて取得したものが最も価値を持ちます。
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インターンシップや早期選考での武器:3年生の夏から本格化するサマーインターンシップの選考や、秋以降に始まる早期選考において、高いTOEICスコアは、エントリーシート上で輝く具体的なスキル証明となります。また、面接で「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を問われた際に、目標スコア達成までの努力の過程や、そこで得た課題解決能力について語ることもできます。
理想的なシナリオは、大学1・2年生でIPテストなどを活用して基礎力と試験慣れを図り、大学3年生で目標スコアを達成して就職活動に臨むというものです。計画的なアプローチが、最終的な成功を大きく左右します。
院試ではTOEICとTOEFLどっちが有利?
学部での学びをさらに深めるため、大学院への進学を志す大学生にとって、英語力は専門知識と同じくらい重要な評価項目です。多くの大学院では、独自の英語試験の代わりに外部の英語資格試験のスコア提出を求めており、その選択が合否に影響を与えることも少なくありません。どちらの試験が有利かは、目指す大学院が国内か海外かによって、その答えは明確に異なります。
国内大学院を目指す場合:要項の確認が絶対
国内の大学院、特に理系の研究科などでは、英語の論文を読み解く能力が必須とされるため、英語試験が課されます。近年、その英語試験を免除する条件として、「TOEIC」のスコアを利用できる大学院が非常に増えています。
多くの場合、TOEFLスコアも同様に受け付けられていますが、一般的にTOEICの方が日本人学習者にとっては対策しやすく、短期間で目標スコアに到達しやすいため、TOEICを選択する受験生が多いのが実情です。大学院側が設定する基準スコアも、例えば「TOEIC 730点以上」といった具体的な形で示されていることが多く、目標設定がしやすいというメリットもあります。
しかし、これはあくまで一般的な傾向です。大学院や専攻によっては、
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TOEFLスコアのみを認めている
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TOEICはL&Rだけでなく、Speaking & Writingテストのスコアも求めている
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外部試験は一切認めず、独自の英語試験(多くは専門分野の英文和訳など)を必須としている
といったケースも存在します。したがって、国内の大学院進学を考える場合、何よりも先に志望する大学院・研究科の公式ウェブサイトから最新の募集要項を入手し、英語試験に関する規定を熟読することが、全ての戦略の出発点となります。
海外大学院を目指す場合:TOEFL一択
一方、アメリカ、カナダ、イギリス、ヨーロッパ諸国など、海外の大学院への留学を目指すのであれば、選択肢はほぼ「TOEFL」一択となります。(※イギリスやオーストラリアなど一部の英連邦諸国では、TOEFLと並んで「IELTS」という試験が主流です)
TOEFLは、英語圏の大学で、ネイティブの学生と共に専門的な研究や議論を行うために必要な、高度でアカデミックな英語運用能力を証明するために設計された試験です。そのため、世界中の大学院が留学生を受け入れる際の、英語力に関する絶対的な基準としてこれを採用しています。
要求されるスコアは非常に高く、一般的に修士課程で80点~90点以上、世界トップレベルの大学院や博士課程では100点以上という、極めて高い英語力が求められます。TOEICのスコアは、海外大学院の出願書類としては、残念ながら英語力の証明としてほとんど認められていません。
院試における選択は明快です。国内ならまず募集要項を確認、海外なら迷わずTOEFL(またはIELTS)の対策に全力を注ぐ必要があります。
どっちから勉強する?同時に勉強は可能か
「将来、就職もしたいし、チャンスがあれば留学もしてみたい」そんな風に、まだ明確な進路を決めかねている大学生にとって、「TOEICとTOEFL、どちらから勉強を始めるべきか」という問題は、学習の第一歩を妨げる大きな壁になりがちです。
迷ったら、まずは「TOEIC」から
もしあなたが英語学習の初心者であったり、将来の目標がまだ定まっていなかったり、あるいは単純にどちらを学ぶべきか決められないでいるならば、自信を持って「TOEICから始めること」をおすすめします。
その理由は、TOEICが英語学習の強固な「土台」を築く上で、非常に優れたツールだからです。
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難易度と達成感:前述の通り、TOEICはTOEFLに比べて扱う語彙が日常的・ビジネス的であり、試験形式もシンプルなため、学習の成果がスコアに反映されやすい特徴があります。小さな成功体験を積み重ね、英語学習に対する自信とモチベーションを高める上で、TOEICは最適な入門テストと言えます。
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コストパフォーマンス:TOEFLの受験料が為替レートによっては4万円近くになることもあるのに対し、TOEICは7,810円と比較的安価です。学習の進捗を確認するために定期的に受験することを考えても、経済的な負担が少なく済みます。
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基礎力の養成:TOEICの学習を通じて身につく、基本的な文法知識、ビジネス頻出語彙、そしてリスニングにおける集中力やリーディングにおける速読のスキルは、TOEFLを含むあらゆる英語学習の基礎となります。この土台があれば、将来TOEFLの学習へ移行した際、難解なアカデミック語彙の習得や、複雑な文章構造の理解に、よりスムーズに取り組むことができるのです。
同時学習は「非効率」という現実
では、TOEICとTOEFLを同時に勉強するのはどうでしょうか。結論から言うと、これは学習効率の観点から、ほとんどの場合において推奨されません。
両テストは、目的地が異なる別の乗り物のようなものです。TOEICが「市街地を効率よく走るための普通自動車」だとすれば、TOEFLは「未舗装の悪路や山道を走破するための四輪駆動車」に例えられます。両方の運転技術を同時にマスターしようとすると、どちらの操作も中途半半端になり、結果としてどちらの道もスムーズに進めなくなってしまうでしょう。
具体的には、TOEICで求められる「情報処理能力」と、TOEFLで求められる「論理的発信能力」は、脳の使い方が異なります。学習の焦点が分散し、使用する単語帳や問題集も別々になるため、学習時間と労力が倍近くかかってしまう割に、成果が出にくいという状況に陥りがちです。
もし、どうしても両方のスコアが必要なのであれば、期間を明確に区切ることが不可欠です。「まずはこの4ヶ月でTOEIC800点を達成する。それが終わったら、次の半年はTOEFL対策に完全に切り替える」といったように、一度に一つの目標に集中する「選択と集中」の戦略が、最終的に両方の目標を達成するための最も賢明な道筋です。
TOEICの勉強法とおすすめ単語帳
TOEICで目標スコアを達成するためには、単に長時間勉強するのではなく、試験の特性を理解した上で、質の高い学習を継続することが不可欠です。その学習戦略の核となるのが、「語彙力の強化」と「公式教材による実践演習」の二大原則です。
スコアの根幹を支える「単語力」
TOEICは「単語が9割」と言われるほど、語彙力がスコアに直結する試験です。文法構造自体はそれほど複雑ではなく、出題される単語を知っているかどうかで、正答率が劇的に変わります。単語が分かれば、リスニングでは音声がクリアに意味を伴って聞こえ、リーディングでは文章がスムーズに頭に入ってきます。
この最重要課題である単語学習において、多くの高得点者がバイブルとして推奨するのが『TOEIC L & R TEST 出る単特急 金のフレーズ』(通称:金フレ)です。この単語帳の強みは、著者が長年にわたりTOEICを受験し続け、実際の試験で本当に出題された単語だけを厳選している点にあります。
600点レベル、730点レベル、860点レベル、990点レベルと、目標スコアごとに章が分かれているため、自分のレベルに合わせて無理なくステップアップできます。また、単語単体ではなく、実際に使われる短いフレーズの中で覚える形式なので、生きた使い方を効率的にインプットできるのも大きな利点です。
英語初心者の方や、まずは600点を目指したいという方は、より基礎的な単語に絞った姉妹編の『TOEIC L & R TEST 出る単特急 銀のフレーズ』から始めると良いでしょう。これらの単語帳を1冊完璧に仕上げることが、スコアアップへの最短距離です。
本番力をシミュレートする「公式問題集」
インプットした単語力を得点力に変換するためには、実践演習が欠かせません。そのための最高の教材が、TOEICテストを開発しているETS(Educational Testing Service)が唯一発行している「公式TOEIC Listening & Reading 問題集」です。
公式問題集は、本番のテストと全く同じプロセスで制作されており、問題の質、難易度、ナレーターの音声、レイアウトに至るまで、全てが本番と同一です。これを本番と同じ2時間という時間を厳密に計って解くことで、以下のような多くのメリットが得られます。
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現在の実力の正確な把握:正答数からスコア換算することで、現在の自分の立ち位置を客観的に知ることができます。
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弱点の発見:どのパートで時間を使いすぎているか、どのタイプの問題で間違えやすいかを具体的に分析できます。
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時間配分のトレーニング:特にリーディングセクションは時間との戦いです。限られた時間内に全ての問題を解ききるための、自分なりのペース配分を確立する練習になります。
最も重要なのは、解き終わった後の「復習」です。リスニングで聞き取れなかった部分は、スクリプトを見ながら何度も聞き直し、音声に少し遅れて影(シャドー)のようについていく「シャドーイング」を繰り返すことで、耳が英語の音とリズムに慣れていきます。リーディングで間違えた問題は、なぜその答えになるのかを文法・語彙の両面から徹底的に分析し、理解することが不可欠です。
この「金フレでインプット、公式問題集でアウトプットと復習」というサイクルを愚直に繰り返すことが、TOEIC攻略の最も確実で王道な勉強法なのです。
TOEFLの勉強法と対策のポイント
TOEFL iBTは、4技能の総合力を高いレベルで問うため、各セクションに対して計画的かつ専門的な対策が不可欠となります。特に、独学ではスキルアップが難しいスピーキングとライティングは、外部の力を借りることも視野に入れた戦略が効果的です。
インプット技能(リーディング・リスニング)の攻略
TOEFLのインプットセクションは、膨大な量の学術的な情報を、制限時間内に正確に処理する能力が求められます。
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リーディング対策:TOEFLの長文は、自然科学から人文科学まで、多岐にわたるアカデミックなテーマを扱います。まずは、この分野の語彙に慣れることが最優先です。『TOEFLテスト英単語3800』のような、専門分野別に単語が整理されている網羅的な単語帳を使い、語彙の地盤を固めましょう。その上で、公式問題集(Official Guide)を使い、各パラグラフの要点を掴みながら読み進める「パラグラフリーディング」や、文章全体の構造を理解し、要約する練習を積むことが重要です。
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リスニング対策:大学の講義を模した長い音声を聞き、その内容について問われる形式が中心です。リーディング同様、専門用語の聞き取りが鍵となりますが、それに加えて「ノートテイキング(メモ取り)」の技術がスコアを大きく左右します。話される内容を全て書き取るのではなく、話の構造(問題提起→具体例→結論など)を意識しながら、キーワードや記号、略語を使って要点を効率的にメモする練習を日頃から行いましょう。BBCやNPRなどの海外ニュース、あるいはTED Talksのような学術的なプレゼンテーションを教材として活用するのも有効です。
アウトプット技能(スピーキング・ライティング)の攻略
TOEFLで多くの日本人受験者が最も苦労するのが、このアウトプットセクションです。知識だけでなく、それを瞬時に、かつ論理的に構築して発信する能力が問われます。
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スピーキング対策:TOEFLのスピーキングは、画面に表示されるお題に対して、マイクに向かって回答を録音する形式です。自分の意見を述べるIndependent Taskと、読んだり聞いたりした内容を要約するIntegrated Taskがあります。どちらも、「主張→理由1→具体例1→理由2→具体例2→結論」といった、論理的な話の「型(テンプレート)」を事前に準備し、それに沿って話す練習を繰り返すことが極めて重要です。しかし、独学では自分の発音の癖や文法の誤り、話の構成の不自然さに気づくことは困難です。オンライン英会話などを活用し、ネイティブ講師から客観的なフィードバックを定期的に受けることが、スコアアップへの最短ルートとなります。
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ライティング対策:ライティングも、スピーキングと同様にIndependent TaskとIntegrated Taskの2種類で構成されます。ここでも、「序論(主張の提示)→本論(理由と具体例)→結論(主張の再確認)」というエッセイの基本構造を守ることが絶対条件です。また、同じ単語や表現の繰り返しを避け、多様な語彙や構文を使いこなす「パラフレーズ(言い換え)」の能力も高く評価されます。これも独学での改善には限界があるため、信頼できる指導者や専門の添削サービスを利用し、自分の文章を客観的に評価してもらう機会を設けることが不可欠です。
TOEFLの攻略は、インプットした知識をいかに効果的にアウトプットの形で再構築できるかにかかっています。4技能を切り離さず、連動させながら学習を進めていく意識が大切です。
まとめ:TOEICとTOEFLどっちが大学生に最適か
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大学生が英語資格を選ぶ際は、就職、留学、院試といった自らの目的を明確にすることが全ての出発点
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日本国内での就職活動を最優先するなら、企業での知名度と評価が圧倒的に高いTOEICが最適解
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アメリカやカナダなど、海外の大学・大学院への留学を目指すなら、入学要件として必須のTOEFLを選択
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総合的な難易度は、4技能が問われ内容も学術的なTOEFLの方が、2技能でビジネス・日常が中心のTOEICより格段に高い
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就活で英語力をアピールするなら、大学生の平均スコア(約616点)を大きく上回るTOEIC730点以上が一つの目安
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進路に迷っている、あるいは英語学習の第一歩としては、難易度や受験料の面で挑戦しやすいTOEICから始めるのが賢明
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TOEICとTOEFLは求められるスキルセットが大きく異なるため、同時並行での学習は非効率になりやすく推奨されない
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国内の大学院進学(院試)ではTOEICスコアが利用できる場合が多いが、志望校の募集要項を必ず確認することが不可欠
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TOEICの学習は、頻出単語の完全な暗記と、公式問題集を使った実践演習および徹底的な復習が王道
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TOEFLの学習は、4技能のバランスの取れた対策が必須であり、特にスピーキングとライティングは第三者からの客観的なフィードバックが有効
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英検は国内の大学入試や基礎学力の証明に強いが、就職活動や海外留学における汎用性はTOEIC・TOEFLに一歩譲る
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各種スコアの換算表は、自分の立ち位置を知るためのあくまで参考であり、各テストの特性を理解して活用すべき
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就活でスコアを提出する場合、多くの企業が2年以内のものを求めるため、大学3年生以降の受験が最も確実
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英語学習は継続こそが力であり、大学の早期から計画的に取り組むことで、将来の選択肢は大きく広がる
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最終的にどちらのテストを選ぶにせよ、その目標に向かって努力する学習過程で得られる本質的な英語力こそが、あなたの生涯の財産となる