子どもが生まれるにあたり、「育休と有給、どっちを使って休むのが得なんだろう?」と悩んでいませんか。特に、収入が減ってしまうことへの不安は大きいですよね。
この選択は、実は男性にとっても女性にとっても、将来の手取り額に大きく影響する重要な問題です。育休の代わりに有給を使う選択肢もあれば、そもそも育児休暇を男性が1週間だけ取っても意味ないのでは、あるいは育休を一ヶ月取得するだけでは不十分ではないか、と考える方もいるかもしれません。また、育休と有給の組み合わせやお得な取り方、そもそもどちらが優先されるのかなど、疑問は尽きないものです。
知らずに損をして後悔しないために、本記事では育休と有給の制度を徹底比較し、あなたの状況に最適な選択ができるよう、分かりやすく解説していきます。
【この記事で分かること】
-
育休取得で社会保険料が免除される仕組みがわかる
-
給与と賞与で異なる社会保険料免除の要件を理解できる
-
育休と有給を使った場合の手取り額の違いを把握できる
-
自身の状況に合わせて最もお得な休み方を選択できる
育休と有給はどっちが得?基本的な違いを徹底比較
-
育休を月末に取るとお得になるのはなぜ?
-
育休の代わりに有給を取得するケース
-
男性の育休取得パターンと注意点
-
女性の育休取得パターンと注意点
-
短期の育休は意味ない?男性の一週間や一ヶ月の場合
-
育休と有給はどちらが優先される?繰り越しルール
育休を月末に取るとお得になるのはなぜ?
育休を月末に取得すると経済的に有利になる最大の理由は、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の免除制度にあります。この制度を理解することが、賢い育休取得の第一歩となります。
社会保険料の基本的な仕組み
まず、毎月の給与から天引きされている社会保険料がどのように決定されるかを理解する必要があります。社会保険料は、毎月月末時点での在籍状況を基準に、その月1か月分の保険料が徴収される仕組みになっています。例えば、4月1日から4月30日まで在籍していれば、4月分の社会保険料が徴収されます。たとえ4月29日に退職したとしても、月末に在籍していないため4月分の保険料はかかりません。
この「月末在籍」というルールが、育休の社会保険料免除において非常に重要なポイントになるのです。
育休における社会保険料免除の要件
育児・介護休業法では、育休を取得した労働者の経済的負担を軽減するため、申し出により社会保険料を免除する制度を設けています。この免除は、労働者本人だけでなく、会社(事業主)の負担分も対象となるため、企業側にもメリットがあります。
給与に関する社会保険料が免除される具体的な要件は、以下のいずれかを満たすことです。
-
月末に育児休業を取得していること: これが最も基本的な要件です。例えば、8月31日の1日だけ育休を取得した場合でも、8月分の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)がまるごと免除されます。
-
同一月内に14日以上の育児休業を取得していること: これは、月をまたがずに育休が完結する場合の特例です。例えば、8月10日から8月25日まで(16日間)の育休を取得した場合、月末には育休を取得していませんが、同一月内に14日以上の要件を満たすため、8月分の社会保険料が免除されます。
要するに、たとえわずかな期間であっても、月末を狙って育休を取得すれば、その月の社会保険料負担がゼロになるわけです。社会保険料は給与から天引きされる金額の中でも大きな割合を占めます。例えば、標準報酬月額34万円の場合、健康保険料と厚生年金保険料の本人負担分を合わせると約4万8千円にもなります。この金額が免除されるインパクトは非常に大きく、これが「月末に育休を取るとお得」と言われる最大のカラクリなのです。
育休の代わりに有給を取得するケース
育児のために休みが必要な際、育休ではなく年次有給休暇の取得を検討する方も少なくありません。どちらを選択するかは、個々の価値観や状況によって異なりますが、それぞれのメリット・デメリットを正確に理解した上で判断することが求められます。
有給休暇を選択するメリットと心理的背景
有給休暇を取得する最大のメリットは、休んでいる間も給与が満額支払われる点にあります。育児休業給付金の支給額は、当面の生活を支える上で非常にありがたい制度ですが、その額は休業開始前の給与の約50~67%です。そのため、住宅ローンの返済や教育費など、短期的な収入の減少をどうしても避けたい家庭にとっては、有給休暇が魅力的な選択肢に映るでしょう。
また、心理的な背景も無視できません。特に男性の場合、職場で長期の育休取得者がまだ少なく、取得することにためらいを感じるケースもあります。「同僚に迷惑をかけたくない」「キャリアに影響が出るのではないか」といった不安から、育休ではなく、より取得のハードルが低い有給休暇を選ぶという判断に至ることがあります。
有給休暇のデメリットと注意点
一方で、有給休暇の取得には明確なデメリットが存在します。最も大きいのは、育休取得時に適用される社会保険料の免除制度が利用できないことです。有給休暇は、法律上は給与が支払われる「労働日」として扱われるため、給与や賞与からは通常通り社会保険料が天引きされます。
前述の通り、社会保険料の負担は決して小さくありません。シミュレーション上、手取り額の総額では社会保険料が免除される育休の方が有利になるケースが多いため、目先の給与額だけに捉われると、結果的に損をしてしまう可能性があります。
さらに、将来のために備えておきたい有給休暇の日数を消費してしまう点も、慎重に考えるべきです。特に、子どもが保育園などに通い始めると、急な発熱や感染症で仕事を休まざるを得ない場面が頻繁に訪れます。その際に使える有給休暇が残っていないと、欠勤として扱われ給与が減るだけでなく、精神的な余裕も失われがちです。長期的な視点で、有給休暇という貴重な資源をどのタイミングで使うのが最も効果的か、冷静に判断することが大切です。
男性の育休取得パターンと注意点
近年、男性の家事・育児参加を促進するため、育児・介護休業法は大きく変わりました。制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、男性は家庭にも経済的にも大きく貢献できます。
活用したい「産後パパ育休」と「育休の分割取得」
2022年10月の法改正で、男性の育休取得の選択肢は飛躍的に増えました。特に重要なのが以下の2つの制度です。
-
産後パパ育休(出生時育児休業): 子の出生後8週間以内に、最大4週間(28日)まで育休を取得できる制度です。この期間は2回に分割して取得することが可能です。例えば、「妻の入院中に1週間、退院後の大変な時期に1週間」といった柔軟な休み方ができます。
-
通常の育児休業の分割取得: 産後パパ育休とは別に、原則として子どもが1歳になるまで取得できる通常の育児休業も、2回まで分割して取得できるようになりました。
これらの制度を組み合わせることで、男性は1人の子どもに対して合計で最大4回まで育休を分割取得できます。これにより、「出産直後」「生後半年」「保育園入園前」など、子どもの成長や家庭の状況に合わせて、必要な時期に必要な期間だけ休むという、メリハリの効いた育児参加が可能になったのです。
具体的な取得パターンと戦略
例えば、以下のような戦略的な取得パターンが考えられます。
-
パターンA(短期集中型): 産後パパ育休を利用し、妻の退院直後に2週間取得。その後、通常の育休で月末を狙って1週間取得し、社会保険料の免除を確実に受ける。
-
パターンB(長期分散型): 産後パパ育休で出産直後に2週間取得。その後、仕事が落ち着く生後6か月のタイミングで、賞与月を狙って1か月超の通常の育休を取得。さらに、子どもの1歳の誕生月にも記念として1週間取得する。
賞与(ボーナス)月における最大の注意点
男性が育休を取得する上で、最も注意すべき点が賞与月の社会保険料免除要件です。給与の保険料免除とはルールが異なり、より厳格な条件が設定されています。
賞与から社会保険料が免除されるためには、以下の2つの要件を「両方」満たす必要があります。
-
賞与が支払われた月の月末に、育児休業を取得していること。
-
その育児休業の期間が、連続して「1か月」を超えていること。
例えば、12月10日に賞与が支給される会社で、12月31日を含む1週間の育休を取得したとします。この場合、要件1は満たしますが、育休期間が1か月を超えていないため要件2を満たさず、賞与の社会保険料は免除されません。賞与の社会保険料も高額になるため、これを免除できるかどうかで手取り額は大きく変わります。賞与月に育休を計画する際は、必ず「1か月超」の期間を意識することが極めて重要です。
女性の育休取得パターンと注意点
女性の場合、多くは出産予定日の6週間前から取得できる産前休業(産休)に続けて、産後8週間の産後休業を経て、そのまま育児休業に移行するパターンが一般的です。この期間は、様々な社会保障制度によって経済的に支えられます。
産休・育休中の収入と非課税のメリット
まず、収入の面では、産休中は健康保険から「出産手当金」が、育休中は雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。これらは休業前の給与の満額ではありませんが、休業中の貴重な生活資金となります。
そして、これらの手当金・給付金における最大のメリットは、いずれも「非課税」であるという点です。つまり、所得税の計算対象となる収入には含まれません。例えば、1月1日から12月31日まで丸1年間育休を取得した場合、その年の所得はゼロとして扱われます。
非課税がもたらす二次的な経済効果
所得がゼロまたは低額になることは、所得税が非課税になるだけでなく、二次的な経済効果をもたらします。
-
住民税の軽減: 住民税は前年の所得を基準に課税額が決定されます。そのため、育休を取得して所得がゼロになった年の翌年の住民税は、非課税または大幅に軽減されます。
-
保育料の軽減: 認可保育園の保育料は、多くの自治体で世帯の住民税所得割額を基準に算定されます。夫婦の一方の住民税が非課税になれば、世帯全体の住民税額が大きく下がり、結果として保育料の負担がかなり軽くなる可能性があります。これは、子育て世帯にとって非常に大きなメリットと言えます。
-
配偶者控除の適用: 育休を取得した側の年間所得が48万円以下になる場合、もう一方の配偶者が配偶者控除または配偶者特別控除を受けられる可能性が高まります。これにより、世帯全体での納税額を抑えることができます。
復職タイミングに関する注意点
女性の育休取得で注意したいのが、復職するタイミングです。社会保険料の「月末在籍ルール」は、復職時にも適用されます。
例えば、4月30日を復職日として、その日に1日だけ勤務したとします。この場合、4月末に在籍していることになるため、4月分の社会保険料が1か月分まるごと発生します。給与は1日分の日割りであるにもかかわらず、保険料は1か月分引かれるため、手取り額が極端に少なくなる、あるいはマイナスになるケースすらあり得ます。
このような事態を避けるためには、復職日を月初(例えば5月1日)に設定するなどの工夫が有効です。復職のタイミングについては、会社の総務や人事の担当者と事前にしっかりと相談し、最も有利な日取りを選択することが望ましいでしょう。
短期の育休は意味ない?男性の一週間や一ヶ月の場合
「男性がたった一週間だけ育休を取っても意味ないのでは?」「一ヶ月程度の育休で育児の大変さが分かるものか」といった意見を聞くことがあります。育児への関与という側面では様々な意見がありますが、少なくとも経済的な観点から見れば、たとえ短期間であっても育休を取得する価値は非常に大きいと言えます。
「意味ない」と言われる背景
このような意見が出る背景には、かつての育休制度が長期取得を前提としており、短期間で取得する文化がなかったことが挙げられます。また、育児の奥深さや大変さは、数日や数週間で完全に理解できるものではないという事実も、こうした声につながっているのでしょう。確かに、本格的な育児参加という点では、期間が長いに越したことはありません。
短期育休の経済的な意義
しかし、経済面に目を向けると、話は全く異なります。前述の通り、社会保険料の免除要件は「月末に在籍しているか」が基本です。
例えば、給与34万円の男性が、仕事の都合をつけて月末の金曜日1日だけ育休を取得したとします。このたった1日の育休によって、約4万8千円の社会保険料が免除され、さらに育児休業給付金も1日分受け取れます。一方で、同じ日に有給休暇を取得した場合、社会保険料は免除されません。シミュレーション上、両者の手取り額には約4万円もの差が生まれるのです。これを「意味ない」とは言えないでしょう。
同様に、育休を一ヶ月取得した場合、給与からの社会保険料はもちろん免除されます。もしその月が賞与月であり、育休期間が「1か月と1日」以上であれば、賞与からの高額な社会保険料も免除対象となります。この経済的メリットは計り知れません。
育児参加の第一歩としての価値
経済的なメリットに加え、たとえ短期間でも父親が育児に専念する時間を持つことは、家族にとって大きな価値があります。母親の身体的・精神的負担を軽減し、夫婦で育児に取り組むという意識を共有するきっかけになります。短期育休は、本格的な育児参加への第一歩として、非常に重要な役割を果たすのです。
育休と有給はどちらが優先される?繰り越しルール
育休と有給、どちらも法律で定められた労働者の権利ですが、両者の関係性やルールを正しく理解しておくことは、スムーズな休暇取得のために不可欠です。
権利としての「育休」の優先度
まず、育児休業の申し出は、育児・介護休業法で保障された労働者の正当な権利です。要件を満たす労働者から育休の申し出があった場合、事業主(会社)はこれを拒否することはできません。また、育休の取得を理由として、解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをすることも固く禁じられています。
したがって、労働者が「育休を取得したい」と申し出たのに対し、会社側が「育休ではなく有給休暇で対応してほしい」と一方的に強制することは違法です。両者の権利が競合した場合、労働者の育休取得の意思が優先される、と理解しておきましょう。
有給休暇の「時効」と繰り越しルール
次に、有給休暇の繰り越しについてです。年次有給休暇は、付与された日から2年間で時効となり、権利が消滅します。この2年という時効は、産前産後休業や育児休業を取得している期間中も、通常通り進行します。
例えば、2024年4月1日に付与された有給休暇があったとして、2024年10月から1年間の育休に入ったとします。この場合でも、有給休暇の時効は止まることなく進み、2026年3月31日をもって消滅してしまいます。
このルールを知らないと、育休から復帰した際に、失効してしまった有給休暇の多さに驚くことになりかねません。そのため、育休に入る前に、自身の有給休暇の残日数と、それぞれの有効期限(付与日)を正確に把握しておくことが非常に重要です。その上で、時効が迫っている有給休暇があれば、育休前に計画的に消化するという選択も考えられます。ただし、復帰後の子の看護などに備えてある程度の日数を残しておく戦略も有効であり、総合的な判断が求められます。
育休と有給はどっちが得?よくある疑問を全て解決
-
育休給付金の上限額はいくら?
-
育休給付が10割になるのはいつから?
-
育休前の有給消化と育休明けの有給不足
-
育休と有給5日など組み合わせのお得な取り方
-
結論!あなたの状況では育休と有給どっちが得か
育休給付金の上限額はいくら?
育児休業給付金は、休業中の生活を支えるための重要な制度ですが、無制限に支給されるわけではなく、計算の基礎となる賃金に上限額と下限額が定められています。
育児休業給付金の計算方法と上限・下限
育児休業給付金の1日あたりの支給額は、原則として以下の式で計算されます。
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%(育休開始から181日目以降は50%)
この計算式の基礎となる「休業開始時賃金日額」は、育休開始前6か月間の賃金を180で割って算出しますが、この賃金額には上限と下限が設けられています。この上限額・下限額は、「毎月勤労統計」の平均定期給与額の変動に基づき、毎年8月1日に改定されます。
例えば、2024年8月1日時点での賃金月額の上限は462,900円です。これを基に計算すると、給付金の月額(30日分)の上限は以下のようになります。
-
休業開始から180日目まで(支給率67%): 310,143円
-
181日目以降(支給率50%): 231,450円
つまり、休業前の給与が月額50万円や60万円といった高所得の方であっても、受け取れる育児休業給付金は上記の金額が上限となります。
逆に、下限額も設定されており、賃金月額が82,380円を下回る場合は、82,380円として計算されます。これにより、最低限の給付額が保障されています。ご自身の給与水準が上限・下限のどちらかに該当するかどうか、事前にハローワークのウェブサイトなどで最新の情報を確認しておくと、より正確な資金計画を立てられます。
育休給付が10割になるのはいつから?
現状、育児休業給付金の支給率は最大でも休業前賃金の67%ですが、これを実質的に10割に引き上げるという画期的な制度改正が政府で検討されています。
新制度「出生後休業支援給付(仮称)」の概要
この新制度は、少子化対策の柱の一つとして位置づけられており、特に男性の育休取得を強力に後押しすることを目的としています。2025年度からの施行を目指して、現在詳細な制度設計が進められています。
現時点で公表されている案の主な内容は以下の通りです。
-
対象者: 子どもが生まれる女性と、その配偶者である男性。
-
給付要件:
-
女性:産後休業(8週間)を取得していること。
-
男性:子の出生後8週間以内に、14日以上の育児休業を取得していること。
-
-
給付内容:
-
女性:産休中に現在支給されている出産手当金(約67%)に加え、賃金の約13%相当額を上乗せ支給。
-
男性:育休中に現在支給されている育児休業給付金(67%)に加え、賃金の13%相当額を上乗せ支給。
-
-
効果: 上乗せ給付と、現行の社会保険料免除(約14%相当)を合わせることで、手取り収入が休業前の水準と変わらない「実質10割」を実現する。
-
期間: 給付の対象となる期間は、最長で28日間(4週間)。
制度導入への期待と注意点
この制度が実現すれば、育休取得による「収入減」という最大のハードルが、少なくとも最初の1か月間については解消されます。これにより、これまで収入面を理由に育休取得をためらっていた層、特に男性が育休を取得しやすくなることが大いに期待されます。
ただし、注意点もあります。これはあくまで2025年度からの開始を目指す制度案であり、国会での審議を経て正式に決定されます。また、対象期間が最長28日間に限定されているため、それ以降の期間については現行制度(支給率67%または50%)が適用されます。この新しい制度に期待しつつも、現時点での資金計画は、あくまで現行制度をベースに堅実に立てておくことが賢明です。
育休前の有給消化と育休明けの有給不足
育休という長期休暇を前に、残っている有給休暇をどのように扱うべきか。これは多くの人が悩むポイントであり、正解は一つではありません。メリットとデメリットを天秤にかけ、自身の状況に合った戦略を立てる必要があります。
メリット:時効防止と収入100%期間の確保
育休前に有給休暇を消化する最大のメリットは、時効による権利の消滅を防げることです。前述の通り、有給休暇の時効は育休期間中も進行するため、1年以上の育休を取得する場合、かなりの日数が失効してしまう可能性があります。これを防ぐために、育休開始前に時効が近い有給休暇をまとめて取得するのは、非常に合理的な判断です。
また、有給休暇を取得した期間は給与が100%支払われるため、育児休業給付金(約67%)が支給されるまでの間の収入のつなぎとして、あるいは物入りな出産準備期間の収入確保として、大きな安心材料になります。
デメリット:復帰後の「もしも」に備えられないリスク
一方で、手持ちの有給休暇をすべて使い切ってしまうことには、大きなリスクが伴います。そのリスクが最も顕在化するのが、職場復帰後です。
子どもは、新しい環境、特に保育園のような集団生活の場では、驚くほど頻繁に体調を崩します。急な発熱、感染症の流行などで、突然「お迎え要請」の電話がかかってくることは日常茶飯事です。そのような「もしも」の事態に、頼りになるのが有給休暇です。
もし復帰時点で有給休暇がゼロだった場合、選択肢は限られます。欠勤扱い(無給)で休むか、夫婦のどちらかが無理をするか、あるいは祖父母など他の家族のサポートを頼るしかありません。子の看護休暇制度(年間5日、子どもが2人以上なら10日)もありますが、これが有給か無給かは企業の規定によるため、必ずしも収入が保障されるわけではありません。
したがって、育休前に有給休暇を消化する際は、復帰後の生活を具体的にイメージし、子の看護や自身の体調不良に備えて、ある程度の日数を戦略的に温存しておくという視点が不可欠です。
育休と有給5日など組み合わせのお得な取り方
育休と有給は、対立する選択肢としてだけでなく、戦略的に組み合わせることで、それぞれのメリットを最大化できる関係にあります。制度を深く理解し、自身の状況に合わせてカスタマイズすることが、最もお得な休み方につながります。
年5日の有給休暇取得義務と育休
2019年から、全ての企業において、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させることが義務化されました。この義務への対応として、育休と有給を組み合わせる方法が考えられます。
例えば、育休に入る前に計画的に5日間の有給休暇を取得し、それに続けて育休期間に入るというプランです。これにより、会社は取得義務を果たせ、労働者は収入が100%確保される期間を持った上で、スムーズに育休へ移行できます。
ケース別シミュレーションで見る手取り額の違い
では、実際に休み方によって手取り額がどれほど変わるのか、より具体的なシミュレーションで見ていきましょう。ここでは、月給34万円、賞与50万円(7月支給)の会社員が、7月~8月にかけて約1か月(32日間)休むケースを想定します。
シミュレーションから分かること
この比較から分かるように、目先の給与額が最も高いのは①の全て有給で取得するパターンですが、社会保険料の負担が重く、総手取り額では見劣りします。
最も総手取り額が多くなるのは、②の全て育休で取得するパターンです。これは、給与と賞与の両方から社会保険料が免除される効果がいかに大きいかを示しています。
③のように、月末に1日だけ育休を取得する戦術も有効ですが、賞与月の場合は「1か月超」の要件を満たせないと、賞与の保険料免除という最大のメリットを逃してしまいます。
これらの結果から、ご自身の賞与月や休みたい期間を考慮し、どのパターンのメリットが最も大きいかを見極めることが、賢い選択への鍵となります。
結論!あなたの状況では育休と有給どっちが得か
この記事で解説した内容を踏まえ、育休と有給のどちらが得か、またどのように取得すべきかについての要点をまとめます。
-
育休と有給のどちらが得かは個人の状況や目的によって異なる
-
経済的なメリットを最大化したいなら育休の活用が基本
-
育休中は社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が免除される
-
社会保険料の免除は被保険者負担分と事業主負担分の両方が対象
-
給与の社会保険料免除は月末に育休を取得していることが鍵
-
または同一月内で14日以上の育休取得でも給与の保険料は免除される
-
賞与の社会保険料免除は「月末の育休取得」と「1か月超の休業」の両方が必要
-
育休中に受け取る育児休業給付金は非課税所得
-
非課税所得であるため所得税や翌年の住民税が安くなる
-
住民税が安くなることで保育料も安くなる可能性がある
-
有給休暇は給与が100%支払われるが社会保険料は免除されない
-
短期的な収入維持を優先するなら有給も選択肢になる
-
男性は産後パパ育休と通常の育休を合わせて最大4回まで分割取得可能
-
育休前に有給を消化すると復帰後に子の看護などで困るリスクがある
-
ご自身の給与額や賞与月、会社の規定を確認し計画を立てることが最も大切